第43回日本臨床心理学会大会(東京)
―どなたでもご自由にご参加下さい-
大会委員長 藤本 豊(東京都立中部精神保健福祉総合センター)
京都、姫路とこのところ関西での大会の開催でしたが、今大会は東京地区での開催となりました。会場は池袋の立教大学です。巨大都市東京では「おいでやす京都へ」とか「瀬戸内海の幸を満喫してください」などといった大会のキャッチコピーもなく、東京での開催は毎回参加者が少なく大会運営に苦労します。
「ようこそ国際都市東京へ」と表現したらいいでしょうか? 東京には世界各国から様々な人々が集まり、暮らし、膨大な情報が集中しています。都心のオフィスビルでは深夜でも明々と明かりがともり、人々が忙しく働いています。「国際都市東京」は、24時間休みなく働く人工空間都市です。そんな東京にありながら大会会場の立教大学はレンガ作りの瀟洒な建物に囲まれホッとする空間を醸し出しています。
一方都心のオフィスで働く人々は、小泉内閣での市場原理の導入と規制緩和政策に代表される「新自由主義」の下で効率を重視する企業の中で疲弊し、「うつ病」が増加しています。そして、年間3万人を越す「自殺」が社会問題化しています。ヒルズ族に代表される一部の富裕層と「ネットカフェ」で寝起きする「負け組」といったニ極化した格差が進行しています。混迷する現代社会で、「心の問題」が注目され、「健康な心」を一人ひとりの個人の中に求めるようになって来ました。しかし、「病んだ心」は人々の中に単独で存在するのではなく、「社会」との関係で「病んで」いるわけです。そうした意味で「臨床心理学」は社会との関係を無視して考えることは出来ません。日本臨床心理学会は、絶えず「社会との関係」での「臨床心理学」を考えてきました。
本大会では、混迷する「心理の国家資格化」についての討論を初日に、またニ日目以降では「コミュニティ」「教育」「精神障害」の各々の分野で、社会との関係を含めた様々な角度からの検討を深め日々の臨床活動のヒントが得られる分科会を設定しました。最終日に、公教育問題を軸に鋭い視点で現代社会が抱える「心」の問題について切り込んでこられた、三宅晶子さんをお招きしての講演と討論を企画しました。
一人でも多くの方々のご参加をお待ちしています。
日時:2007年9月6日(木)~8日(土)
場所:立教大学池袋キャンバス(東京都豊島区西池袋3-34-1)
午 前 | 午 後 | 夜 | |
9/6(木) | 2:00~3:30 事務総会・役員改選3:30~5:30 総会討議 国家資格について | ||
9/7(金) | 10:00~12:30個別発表 | 1:30~4:30分科会I コミュニティの中での心理ワークショップ ヒアリング・ヴォイシズ | 懇親会 |
9/8(土) | 9:30~12:30分科会II 今、教育現場で何が起きているのか分科会III 「精神障害者」の地域支援と臨床心理 | 1:30~4:30講演と討論 格差社会と心-新自由主義と新国家主義を見据えて-講師:三宅 晶子さん |
【大会参加費】会員3,500円 非会員4,000円 ユーザー・学生2,000円【懇親会】4,000円
【講演会のみ】一律1,000円 ※学会員以外の方の参加もお待ちしています。
【日本臨床心理学会事務局】〒110-0003 台東区根岸1-1-24 鶯谷日伸ハイツ201
?&FAX 03-3847-9164 IP-TEL 050-1092-1615(電話は月曜日のみです)
学会HP:http://www.geocities.jp/nichirinshin/ e-mail:nichirinshin@yahoo.co.jp
総会討議 臨床心理職国家資格化について
9月6日(木)3:30p.m.~5:30p.m.
話題提供者:宮脇 稔(日本臨床心理学会運営委員)
司 会:奥村 直史(日本臨床心理学会運営委員)
国家資格「臨床心理士及び医療心理師法案」は「2資格1法案」として生きています。2006年末、2007年始にかけて、日本心理学諸学会連合および日本精神科病院協会から臨床心理士サイドに臨床心理士の名称の変更等を要請しました。しかし、臨床心理士サイドは2資格1法案を無修正で国会提出するとの方針を採っており、通常国会への法案提出の可能性はほとんどなくなっている現状です。
こうした現状を踏まえ、学会として何をなすべきか討論していただきたいと考えます。
個別発表
9月7日(金)10:00a.m.~12:30a.m.(部屋割りは大会当日に発表いたします)
トポスとしてのこころ(spirit)に臨む心理学モデル -アジア的臨床心理学を求めて-・・亀口 公一
軽度発達障害者支援に関する一考察 ―ある専門学校における取組みを通して-・・・・波多野 大介
「生きづらさ」を抱える若者が「アートによって自己表現する」ということ・・・・・・藤澤 三佳
長期在院患者の退院促進にかかわる実践的研究
~退院促進モデル病棟の展開プロセスと課題~・・・・・・・・・・・古屋 龍太
禅仏教における自我形成援助方略? 一粒の飯(めし)の「問い」・・・・・・・・・・・・吉田 昭久
分科会I
9月7日(金)1:30p.m.~4:30p.m.
コミュニティの中での心理
発 題 者:栗原 毅(国立精神・神経センター国府台病院デイケア)
亀口 公一(アジール舎 子ども心理発達相談所)
指定討論者:箕口 雅博(立教大学)
私たちは多くの場合、施設や機関の職員(心理職)として位置づいています。そして目の前のクライエントに対する援助・サポートを行うとともに、関係機関や関わりのある人たちと一緒に考える(連携する)事でクライエントを取り巻く状況に対して働きかけています。また、日本臨床心理学会では、関わりのある分野の法律や諸制度のあり方についても、批判的な視点を含みつつ、検討してきています。
今回は、私たちが所属している施設や機関ではなく、私たちが暮らしている地域社会=コミュニティに対して心理を専門とする者の視点と人との関わり方をもって、どのように接点を持ち、位置付き、働きかけて行こうとするのか、その際の課題は何なのか、という事を、ともに考えたいと思います。
当日は、地域でNPO法人を立ち上げて心理的な支援の拠点を作る活動を始めた亀口さんと、市民として市民運動や行政の委員会に参加し始めた栗原さんに、各々の活動の中で心理(職)として意識して行っている事について報告していただき、それに対してコミュニティ心理学を専門とする箕口さんからの指定討論を受けて、全体の議論につなげて行きたいと思っています。
地方分権や市民参加・自治が徐々に進められる中、コミュニティにおける心理(職)のあり方・求められ方も、改めて考えてみる・・そういう事を、自由に話し合える場にしましょう。
ワークショップ ヒアリング・ヴォイシズ(HV)―概要解説とHV面接法のロールプレイによる模擬面接など-
企画者:佐藤 和喜雄(NPO法人福祉会菩提樹、HV研究会)
藤本 豊 (東京都立中部総合精神保健福祉センター)
ヒアリング・ヴォイシズ(以下HV)は、「幻聴」といわれる現象を、「聞こえる」人の体験そのものを原点として、互いにかかわろうとする「態度・方法・理念」を探求する実践・研究であり、オランダで発祥し世界に広がっています。従来の精神医学では「幻聴」を症状として、薬で抑え消そうとします。HVでは、この考え方から180度転換し、聞こえる体験(以下聴声)をありのままに語ってもらい、その苦しみ・恐怖や体験世界そのものを一緒に理解することに努めます。そうすることで本人が孤立を乗り越え、声の脅迫や非難に対処し、自分の真に望む生活と生き方を取戻すのを手助けします。その過程で、マイナスの声ばかりでなくプラスの声も聞こえることが自覚され、どちらの声にも対処し、生活状況との関連で声の意味を探求し、周囲と自分自身の偏見を克服して、この体験を活かした生活と生き方を再構築することも可能になってきます。これが我々の目指す、人間としての回復です。
本ワークショップでは、聴声とはどんなものかをロールプレイによって擬似体験し合います。そして、聴声の体験をありのままに本人が自覚し、また周囲の人がその体験を理解するのを助けるHV面接法を紹介し、この面接法のハイライト部分を企画者の藤本と佐藤がロールプレイ的に実演し、参加者とともに発見・学習・討論に努めたいと思います。
分科会II 今、教育現場で何が起きているのかー発達障害者支援法、特別支援教育施行のもとでー
9月8日(土) 9:30a.m.~12:30p.m.
発題者:菅野 聖子(茨城県那珂市教育支援センター)
石川 憲彦(林試の森クリニック)
片桐 健司(大田区立西六郷小学校)
司 会:谷奥 克己(社会福祉法人 インクルーシヴライフ協会)
2005年に発達障害者支援法が施行され,今年4月に学校教育法が改正されることにより,文部科学省により推進されてきた特別支援教育は,学校内に特別支援コーディネーターが配置されるなど具体的に展開しています。文部科学省は,特別支援教育が必要な根拠として,2002年に実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国調査」の結果の「約6%の割合で,学習障害(LD),注意欠陥/多動性障害(ADHD),高機能自閉症等の特別な教育支援を必要とする児童生徒が在籍している『可能性』」を挙げています。しかし、この調査の方法は,教師がチェックリスト(例:「指示に従えず,また仕事を最後までやり遂げない」)に基づき,子どもを見て評価・回答するというものであり,医師の診断によるものではありません。それでも教育現場では,「6%も障害児がいるというじゃないか」という声や,対応が難しい子どもがいると,「あの子は医療につないで,薬を飲ませたほうが…」という声を聞くようになりました。本人への個別的対応の点検や対応システムの整備を怠り,薬の副作用等の知識もないまま,「即医療,薬」となる風潮が強まっていくのではないかという危惧を感じる状況です。当日は,教育支援センターの現場のお話を菅野聖子さんに、教師の立場から障害児も普通学級で共に生活することを実践してきた片桐健司さんに,そして小児科・精神科医の立場から石川憲彦さんに現状についてお話をお聞きし,ともに考える場にしたいと思います。
分科会III 「精神障害者」の地域支援と臨床心理
発題者:高島 真澄(社会福祉法人光風会)
宮脇 稔 (浅香山病院 社会復帰施設「アンダンテ」)
司 会:奥村 直史(東洋学園大学・南八幡福祉作業所)
古くは病院の中、しかも、心理室の中だけの「心理テスト」や「心理療法」という形での個人的接点が精神科領域に関連した臨床心理活動の場であった頃もあります。しかし臨床心理的活動は、次第に、病棟でのグループ活動やデイケアにおける関わりへと拡がり、更に病院外の共同作業所・生活支援センター・グループホーム等における活動をも含む地域支援活動へと広げてきている歴史があります。活動領域が拡がり、しかも集団場面での関わりが増える中で、共に活動する他職種も、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、社会福祉士等々と多様になっています。そうした中で「臨床心理」を担う者としての具体的実践・役割はどのようなものかを考える機会としたいと思います。
社会復帰施設に勤務するお二人に、現場で担う役割・機能・活動を具体的に語って頂くと共に、更に目指すべき方向や現状に於ける問題点にも触れて頂きたいと思います。加えて、他の職種の人々と、視点や、関わり方や、重きの置き方に違いがあるのか、あるとすれば、どのような所が独自なものなのかを共に検討したいと思います。
講演と討論 「格差社会と心」-新自由主義と新国家主義を見据えて-
9月8日(土) 1:30p.m.~4:30p.m.
講演者:三宅 晶子(千葉大学)
司 会:藤本 豊 (東京都立中部総合精神保健福祉センター)
2002年4月に、文部科学省は、教科書でも副読本でもない「補助教材」という位置付けで、「心のノート」を全国の小・中学生全員に配布しました。日本臨床心理学会は「心のノート」の使用が公教育で実質的に強要されようとする中、子どもの心をのぞき込み.心に優劣の価値をつけて、あるべき心を描いていること、また、現状の心の問題に向き合っていないばかりではなく、心と道徳を意図的にすりかえているといった問題点を指摘してきました。それは「心のノート」というソフトな言葉の陰に潜む「あるべき心」としての「愛国心」教育に危機感を抱いたからです。
いま「心の時代」とか「心」を大切に「心」の栄養などといったソフトな語り口の中で、一人ひとりの「心」が目に見えない何かによってコントロールされています。コントロールするのが「親」「学校」「会社」「国」であると同時に、私たちも「心」をコントロールしなければいけないものとの錯覚に陥った結果、「自己決定」できる自分を作るため、「自己責任」を取れるようにするために「心」をコントロールしなければと感じているといえます。一方では年間の「自殺」者が3万人を越える中で、よりよい「メンタルヘルス」を保つこと、そのためにも「心」を上手くコントロールすることが大切とも語られています。
教育現場でも「心のノート」を発端に、昨年末の「教育基本法改定」で「心」の管理化が進行しています。また、ヒルズ族に代表される「勝ち組」と、ネットカフェに漂流する「負け組」といった経済「格差」も進行し、「負け組」には自助努力が足らない、「自己責任」だから仕方がないといった風潮も見受けられます。
本講演では「心のノート」以降の公教育問題に鋭い視点で切り込んでこられた、三宅晶子さんをお招きして、「新自由主義」と「新国家主義」を糸口に現代社会の様々な「心」のありようについて問題提起をして頂き、参加された方々との有意義な討論が出来ればと考えております。多くの方々のご参加をお待ちしています。